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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)243号 判決 2000年6月29日

原告

エスエムシー株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

被告

特許庁長官【D】

指定代理人

【E】

【F】

【G】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が平成10年異議第72187号事件について平成11年6月22日にした決定を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「ダブルパイロット形切換弁」とする登録第2551946号考案(平成5年5月12日実用新案登録出願(実願平5-29877号)、平成9年7月4日設定登録。本件考案)の実用新案権者であるが、登録異議の申立てがあり、平成10年異議第72187号事件として審理され、平成10年9月29日に訂正請求をしたが、平成11年6月22日、本件考案の登録を取り消す旨の決定があり、その謄本は同月30日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

(1)  訂正請求書に添付の訂正明細書の請求項1に係る考案

圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、

上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパイロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手動操作部を設けるとともに、上記第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプを、それぞれ設け、

上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並設した、ことを特徴とするダブルパイロット形切換弁。

(2)  実用新案登録明細書記載に係る考案

【請求項1】 圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、

上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパイロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手動操作部を設け、

上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並設した、

ことを特徴とするダブルパイロット形切換弁。

【請求項2】 主弁第1の手動操作部側に、第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に、第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプをそれぞれ設けた、

ことを特徴とする請求項1に記載したダブルパイロット形切換弁。

3  決定の理由の要点

(1)  訂正の適否についての判断

(1)-1 平成10年9月29日付けで提出された訂正請求書に添付した訂正明細書の請求項1に係る考案は、前記2(1)のとおりと認める。

(1)-2 引用刊行物記載の考案

訂正請求項に係る考案に対して、審判で通知した訂正拒絶理由で、下記刊行物1及び2を引用した。

刊行物1:実願平2-122339号(実開平4-78377号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

刊行物2:実願昭60-21434号(実開昭61-139372号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

(1)-2-1 刊行物1には、以下の事項が記載されている。

6頁11~18行中に「詳しくは、前記主弁1は、主弁本体4の中心に軸孔5を有し、この軸孔5に連通する入力ポートP、第1および第2の出力ポートA,B、第1および第2の排出ポートRa,Rbが形成されている。軸孔5にスプール状の主軸9が摺動自在に設けられ、この主軸9には小径部9aと大径部9bとが交互に形成され、この大径部9bにシール10が嵌着されている。」と記載され、8頁19行~9頁7行中に「第1および第2のピストン側流体室18a,18b内のパイロット圧により摺動する第1および第2のピストン21a,21bで主軸9を駆動できるようになっている。

前記第1および第2の手動操作装置2a,2bは手動によりパイロットエアの流動方向を切換えるもので、パイロット弁本体11およびエンドカバー7内に配置され、ともに上向きに指向している。」と記載され、

10頁18行~12頁8行中に「第1のパイロット弁3aをOFFにし、かつ第2のパイロット弁3bをONにすると、第1図に示すように、第1のパイロット弁3aでは、第1のプランジャ15aがプランジャばね24の付勢力により固定コア14から離間する。このため第1のポペット19aが第1のポペット側弁座12aに押付けられるので、第1のポペット側弁座12aは閉じ、第1のフラッパ20aがフラッパばね29の付勢力に抗して第1のフラッパ側弁座13aから離間し、第1のフラッパ側弁座13aが開く。

第2のパイロット弁3bでは、第2のプランジャ15bがプランジャばね24の付勢力に抗して固定コア14に磁気的に吸引される。このため第2のポペット19bが第2のポペット側弁座12bから離間するので、第2のポペット側弁座12bは開き、第2のフラッパ20bがフラッパばね29の付勢力により第2のフラッパ側弁座13bに押付けられ、第2のフラッパ側弁座13bが閉じる。

その結果、第1のピストン側流体室18a内のパイロットエアはパイロット通路6a、第1のフラッパ側弁座13a、パイロット通路6cを経てパイロット排出ポート28から排出可能な状態となる。

入力ポートPからの圧縮エアは、軸孔5,パイロット通路6を経て第2のポペット側流体室17bにのみ流入し、さらにパイロット通路6b、第2の手動操作装置2bの軸孔5bを経てポート40から第2のピストン側流体室18bに供給される。」と記載され、

12頁19行~14頁8行中に「次いで、第2のパイロット弁3bをOFFにし、かつ第1のパイロット弁3aをONにすると、前記の場合と逆のプロセスにより、主軸9は左方向に移動し、ストローク左端の位置で停止する。

このように、主軸9がストローク左端の位置にあるときは、入力ポートPからの圧縮エアは軸孔5を経て第1の出力ポートAからアクチュエータに供給される。また、アクチュエータからの圧縮エアは第2の出力ポートB、軸孔5を経て第2の排出ポートRbから排出される。

ここで、第1のパイロット弁3aの使用不能により第1の手動操作装置2aを使って手動で第1のパイロット弁3aを開弁させる場合、第1の手動操作装置2aにおいて、操作部32を手動により押下げると、操作軸30が下向きに移動し、これに伴い、テーパ部31も下向きに移動し、第1のプランジャ15aに当たり、その後は、テーパ作用により、第1のプランジャ15aは固定コア14側へ移動し、これにより第1のパイロット弁3aは開弁状態となる。

また、第2のパイロット弁3bの使用不能により第1の手動操作装置2aを使って手動で第2のパイロット弁3bに代えて、第2のピストン側流体室18bにパイロットエアを供給する場合、第2の手動操作装置2bにおいて、操作部32を手動により押下げると、操作軸30が下向きに移動し、これに伴い、弁体39が下向きに移動し、ポート40を越え、パイロット通路6内のパイロットエアは軸孔5bを経てポート40から第2のピストン側流体室18bに供給される。」と記載され、

したがって、上記の各記載及び第1図等の記載からみて、刊行物1には以下の考案が記載されている。

圧縮エアの入力ポートP、2個の出力ポートA、B及び排出ポートRa、Rbこれらの出力ポートA、Bを入力ポートPと排出ポートRa、Rbとに切換えて連通させる主軸9、並びに該主軸9の軸方向両側に第1、第2のピストン側流体室18a、18bを有する主弁本体4と、第1、第2のピストン側流体室18a、18bにパイロットエアを給排する第1、第2のパイロット弁3a、3bとを備え、第1、第2のパイロット弁3a、3bから第1、第2のピストン側流体室18a、18bに給排されるパイロットエアによって上記主軸9を駆動する電磁弁において、

上記主弁本体4の軸方向両側に、押圧によって上記入力ポートPの圧縮エアを第1、第2のピストン側流体室18a、18bに直接供給するための第1、第2の操作軸30を有する第1、第2の手動操作装置2a、2bを設けるとともに、

上記手動操作装置2a、2bのいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁3a、3bを並設した電磁弁。

(1)-2-2 刊行物2には、以下の事項が記載されている。

1頁5~13行中に「1.パイロット弁の操作力によって主弁の流路を切換えるパイロット形電磁弁において、上記主弁に、パイロット弁への給電端子、電源接続用のプラグ並びにこれらを電気的に接続する印刷配線した回路を設けた印刷配線板を取付け、上記パイロット弁の受電端子を、該パイロット弁の主弁に対する取付けに伴って上記給電端子と電気的に接続されるように圧挿入可能にしたことを特徴とする印刷配線板付パイロット形電磁弁。」と記載され、

4頁9行~6頁4行中に「第1図において、ベース1には、入力ポート2,第1及び第2出力ポート3a、3b及び第1及び第2排出ポート4a、4bがそれぞれ穿設されている。

上記ベース1上にシール部材を介して取付けられた主弁5の弁本体6は、その長手方向に弁孔7及びパイロット孔8が貫通されており、該弁孔7は、その拡径部に穿設された開口によって上記入力ポート2,第1及び第2出力ポート3a、3b並びに第1及び第2排出ポート4a、4bに連通すると共に、入力ポート2に連通する拡径部に設けられた連通孔8aによって、上記パイロット孔8にも連通している。

上記弁本体6の上部においては、周辺の突出部9,9間に収容室10が形成されている。また、上記弁本体6の両端面は、上記弁孔7に連通する連通孔11及びパイロット孔8に連通するパイロット連通孔12が穿設されたエンドプレート13,13によって閉鎖されており、上記弁孔7内に挿入されたスプール14によって、周知の5ポート弁が形成されている。また、上記エンドプレート13,13上には、周知のパイロット弁17,17が、その電磁部18を上記収容室10上に突出させて取り付けられている。

上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両端にパイロット弁17,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と反対側の上面の中央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,17の作動の表示灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、電磁弁の作動等に必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取付けられている。」と記載され、

したがって、上記の各記載及び第1図等の記載からみて、刊行物2には以下の考案が記載されている。(判決注・刊行物2の第1図は本判決別紙参照)

圧力流体の入力ポート2、2個の出力ポート3a、3b及び排出ポート4a、4b、これらの出力ポート3a、3bを入力ポート2と排出ポート4a、4bとに切換えて連通させるスプール14、並びに該スプール14の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁5と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット弁17,17とを備え、第1、第2のパイロット弁17,17から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記スプール14を駆動するパイロット形電磁弁において、

上記主弁5の軸方向一側に、第1のパイロット弁17、第1の表示灯23を、主弁5の軸方向他側に、第2のパイロット弁17、第2の表示灯23を設け、前記2つの表示灯23,23は前記2つのパイロット弁17,17の作動を表示するようにしたパイロット形電磁弁。

(1)-3 対比・判断

(1)-3-1 そこで、訂正請求項に係る考案と刊行物1に記載された考案とを対比すると、刊行物1に記載された考案の「圧縮エア」、「入力ポート」、「主軸」、「主弁本体」、「ピストン側流体室」、「パイロットエア」、「パイロット弁」、「電磁弁」、「操作軸」、「手動操作装置」は、それぞれ訂正請求項に係る考案の「圧力流体」、「供給ポート」、「弁体」、「主弁」、「パイロット室」、「パイロット流体」、「パイロット電磁弁」、「ダブルパイロット形切換弁」、「手動操作釦」、「手動操作部」に対応している。

したがって、両者は、

「圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパイロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手動操作部を設けるとともに、上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を併設した、ダブルパイロット形切換弁。」である点で一致し、以下の点で相違している。

相違点:

訂正請求項に係る考案では、「第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプを、それぞれ設けた」構成を有しているのに対して、刊行物1に記載された考案では、ランプを有していない点。

(1)-3-2 そこで、刊行物2に記載された考案を検討すると、

刊行物2に記載された考案の「入力ポート」、「スプール」、「弁本体」、「パイロット弁」、「パイロット形電磁弁」、「表示灯」は、それぞれ訂正請求項に係る考案の「供給ポート」、「弁体」、「主弁」、「パイロット電磁弁」、「ダブルパイロット形切換弁」、「ランプ」に相当する。

また、刊行物2には、前述のように「パイロット弁17,17の作動の表示灯23,23,が設けられており」と記載され、また、第1図において各表示灯23,23が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識であるから、この刊行物2に記載された考案の主弁軸方向の両側に設けられた2つの表示ランプは、第1の表示ランプが、第1のパイロット電磁弁への通電を表示するとともに、第2の表示ランプが、第2のパイロット電磁弁への通電を表示するものと認められる。

これらのことから、刊行物2に記載された考案は、「圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁」である点で、訂正請求項に係る考案及び刊行物1に記載された考案と共通する技術分野に属する考案であり、「主弁軸方向の両側に、2つの表示ランプを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第2の表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示する」構成を備えているものと認められる。

(1)-3-3 したがって、刊行物1に記載された考案に、刊行物2に記載された第1,第2のパイロット電磁弁の作動を表示する第1,2のランプを設け、その配置を、第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプを配置することは、当業者であれば極めて容易に推考し得るものである。

したがって、訂正請求項に係る考案は、刊行物1及び刊行物2に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録出願の際独立して実用新案登録を受けることができないものである。

(1)-3-4 むすび

以上のとおりであるから、訂正は、平成6年法律第116号附則9条2項の規定によって準用される特許法120条の4第3項の規定によりさらに準用する同法126条4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

(2)  登録異議の申立てについての判断

(2)-1 本件請求項1,2に係る考案

本件請求項1及び請求項2に係る考案は、実用新案登録明細書及び図面の記載からみて、それぞれ、その実用新案登録請求の範囲の請求項1及び2に記載された前記2(2)とおりと認める。

(2)-2 取消理由通知の概要

平成10年7月16日付けで通知した取消理由の概要は、①本件請求項1に係る考案は、本件登録出願前に頒布された下記異議甲第1号証に記載された考案と同一の考案であり、実用新案法3条1項3号に該当し、また、②本件請求項2に係る考案は、本件登録出願前に頒布された異議甲第1号証及び異議甲第2号証に記載の考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるというものである。

異議甲第1号証:実願平2-122339号(実開平4-78377号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

異議甲第2号証:実願平3-1894号(実開平4-99486号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

(2)-3 異議甲第1、第2号証記載の考案

(2)-3-1 異議甲第1号証には、前記(1)-2-1に記載のとおりの考案が記載されている。

(2)-3-2 異議甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

【実用新案登録請求の範囲】の欄に、「【請求項1】外側表面に表示部が設けられているとともに、作動状態の視認用の発光部が内設されている流体圧機器であって、前記表示部と前記発光部の透光部とが前記外表面側において互いに近接されて配置され、この近接された前記表示部と前記発光部の透光部とが互いに共通する透視可能な表示用カバーによって被覆されていることを特徴とする流体圧機器。」と記載され、

段落【0016】~【0018】に「図1に示すように、本実施例の流体圧機器1は、弁本体2とこの両側に結合されたパイロット弁3とを備えたパイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁とされている。

前記弁本体2内には、パイロット弁3からの補助圧縮空気によって所定の流路を切り換える主軸(図示せず)が軸方向に沿って変位自在に収容されている。

一方、前記パイロット弁3には、ソレノイド部(図示せず)が形成され、このソレノイド部によりパイロット弁3のポペット(図示せず)の開閉作動がなされる構造とされている。」と記載され、

段落【0028】の第2行目以下に「また、第2嵌合用凹部10の底面における印刷ラベル12の両側近辺には、穿設孔からなる透光部13および掛止孔14が一対配置されている。」と記載され、

段落【0029】に「カバー4の下側の弁本体2には、透光部13に対応して発光ダイオードなどからなる発光部(図示せず)が一対内設され、この発光部の発光が透光部13を通じて外部に透光されるようになっている。」と記載され、

段落【0043】の第6行目以下に「また、前記発光部(図示せず)の透光部13が透視可能な表示用カバー15によって被覆されていることにより、その透光部13を任意の形状に変更することが可能とされ、この透光部13の任意の形状への変更により表示灯による作動状態の識別機能の明確化ないし拡大化を図ることができる。」と記載され、

したがって、上記の各記載及び図1ないし図10等の記載からみて、異議甲第2号証には以下の考案が記載されている。

所定の流路を切り換える主軸を有する弁本体と、第1、第2のパイロット弁からの補助圧縮空気によって上記主軸を軸方向に駆動するパイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁において、

弁本体の一側に、第1のパイロット弁及び発光部を、弁本体の他側に、第2のパイロット弁及び発光部を設け、パイロット弁の作動を表示するようにしたパイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁。

(2)-4 本件請求項1に係る考案について

本件請求項1に係る考案と異議甲第1号証に記載された考案とを対比すると、

「圧力流体の供給ポート、2個の出力ポート及び排出ポート、これらの出力ポートを供給ポートと排出ポートとに切換えて連通させる弁体、並びに該弁体の軸方向両側に第1、第2のパイロット室を有する主弁と、第1、第2のパイロット室にパイロット流体を給排する第1、第2のパイロット電磁弁とを備え、第1、第2のパイロット電磁弁から第1、第2のパイロット室に給排されるパイロット流体によって上記弁体を駆動するダブルパイロット形切換弁において、

上記主弁の軸方向両側に、押圧によって上記供給ポートの流体を第1、第2のパイロット室に直接供給するための第1、第2の手動操作釦を有する第1、第2の手動操作部を設け、

上記手動操作部のいずれか一方の軸方向一側に、第1、第2のパイロット弁を並設したダブルパイロット形切換弁。」

の点で一致し、異議甲第1号証に記載された考案は、本件請求項1に係る考案の構成をことごとく備えているので、本件請求項1に係る考案は、異議甲第1号証に記載された考案と同一の考案であり、実用新案法3条1項3号に規定の考案に該当する。

(2)-5 本件請求項2に係る考案について

(2)-5-1 本件請求項2に係る考案と異議甲第1号証に記載された考案とを対比すると、請求項2に係る考案は、前記訂正請求項に係る考案と実質的に同一の考案と認められ、したがって、両者の一致点及び相違点は、前記(1)-3-1で検討したとおりのものと認める。

(2)-5-2 そこで、異議甲第2号証に記載された考案を検討すると、異議甲第2号証に記載された考案の「主軸」、「補助圧縮空気」、「弁本体」、「発光部」、「パイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁」は、それぞれ本件請求項2に係る考案の「弁体」、「パイロット流体」、「主弁」、「ランプ」、「ダブルパイロット形切換弁」に相当する。

また、異議甲第2号証には、前述のように「流体用機器には作動状態の視認用の発光部が内設されている。」、「本実施例の流体圧機器1は、弁本体2とこの両側に結合されたパイロット弁3とを備えたパイロット式ダブルソレノイド形の電磁弁とされている。」、及び「カバー4の下側の弁本体2には、透光部13に対応して発光ダイオードなどからなる発光部が一対内設され、この発光部の発光が透光部13を通じて外部に透光されるようになっている。」との記載があり、これらの記載からみて、透光部13は、パイロット弁3,3の作動を表示しているものと認められる。

また、異議甲第2号証の第1図及び第2図において、各表示用透光部13が遠くに離れた側のパイロット弁3の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロット弁3の作動を表示するものと解するのが技術常識である。

これらのことから、異議甲第2号証に記載された考案は、「所定の流路を切り換える弁体を有する主弁と、第1、第2のパイロット電磁弁からのパイロット流体によって上記弁体を軸方向に駆動するダブルパイロット形切換弁において、」である点で、本件請求請求項2に係る考案及び異議甲第1号証に記載された考案と共通する技術分野に属する考案であり、「主弁軸方向の両側に、2つの表示ランプを設け、第1の表示ランプは、これに隣接する第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第2の表示ランプは、またこれに隣接する第2のパイロット電磁弁の作動を表示する」構成を備えているものと認められる。

(2)-5-3 したがって、異議甲第1号証に記載された考案に、異議甲第2号証に記載された第1,第2のパイロット電磁弁の作動を表示する第1,2のランプを設け、その配置を、第1の手動操作部側に第1のパイロット弁への通電を表示する第1のランプを、第2の手動操作部側に第2のパイロット弁への通電を表示する第2のランプを配置することは、当業者であれば極めて容易に推考し得るものである。

したがって、本件請求項2に係る考案は、異議甲第1号証及び異議甲第2号証に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項に規定により実用新案登録を受けることができない。

(2)-6 小結

以上のとおり、本件請求項1及び請求項2に係る考案は、特許法等の一部を改正する法律(平成2年法律第30号)により改正された実用新案法3条1項3号及び同法3条2項の規定によりそれぞれ実用新案登録を受けることができない。

したがって、本件請求項1及び請求項2に係る考案についての実用新案登録は、拒絶の査定をしなければならない実用新案登録出願に対してされたものである。

(3)  決定の結論

よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則9条7項の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)3条1項及び2項の規定により、本件考案の実用新案登録を取り消す。

第3原告主張の決定取消事由

決定は、訂正後の本件考案と刊行物1に記載された考案との相違点の判断を誤り、また、訂正後の本件考案の顕著な作用効果を看過して、訂正後の本件考案が独立して実用新案登録を受けることができないから訂正を認めないと判断したものであり、この誤りは決定の結論に影響を及ぼすものであるから、取り消されるべきである。

1  刊行物2について

決定は、刊行物2には「主弁5の軸方向一側に、第1のパイロット弁17、第1の表示灯23を、主弁5の軸方向他側に、第2のパイロット弁17、第2の表示灯23を設け、前記2つの表示灯23,23は前記2つのパイロット弁17,17の作動を表示するようにしたパイロット形電磁弁。」が記載されていると認定した上、「刊行物2には、前述のように『パイロット弁17,17の作動の表示灯23,23が設けられており』と記載され、また、第1図において各表示灯23,23が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識であるから、この刊行物2に記載された考案の主弁軸方向の両側に設けられた2つの表示ランプは、第1の表示ランプが、第1のパイロット電磁弁への通電を表示するとともに、第2の表示ランプが、第2のパイロット電磁弁への通電を表示するものと認められる。これらのことから、刊行物2に記載された考案は、・・・『主弁軸方向の両側に、2つの表示ランプを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第2の表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示する』構成を備えているものと認められる。」と認定しているが、誤りである。

すなわち、刊行物2には、主弁の軸方向両側にパイロット弁17,17を個別に設けたこと、及び主弁の軸方向の左右に表示灯23,23を個別に設けたことは記載されているが、第1図の記載を参照しても、第1図における左側の表示灯23が左側のパイロット弁17への通電を表示し、右側の表示灯23が右側のパイロット弁17への通電を表示するものであることを示す記載はない。また、各表示灯が隣接する側のパイロット電磁弁の作動を表示すると解することが技術常識であるという根拠は、何も示されていない。

したがって、決定が、刊行物2について「主弁軸方向の両側に、2つの表示ランプを設け、第1の表示ランプは、第1のパイロット電磁弁の作動を表示し、第2の表示ランプは、第2のパイロット電磁弁の作動を表示する構成を備えているものと認められる。」とした認定は誤りである。

2  乙号証について

被告は、刊行物2の第1図において、各表示灯23,23が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識であることの証拠として、乙第1号証ないし乙第6号証を提出している。

乙第1号証:実願昭60-02907号(実開昭62-12068号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

乙第2号証:特開昭56-157206号公報。

乙第3号証:特開昭59-103102号公報。

乙第4号証:実願昭54-12002号(実開昭55-112353号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

乙第5号証:実願昭54-64756号(実開昭55-164727号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

乙第6号証:実願昭61-7305号(実開昭62-120298号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム。

しかし、乙第1号証に記載の切換弁は、パイロット弁8自体に、該パイロット弁の手動操作部(切換ボタン22)と表示灯(ランプ部25)とを組み込んで一体としたものであるから、パイロット弁に一体に組み込んだ表示灯が該パイロット弁の作動を表示すること、及びこれらのパイロット弁を覆う保護カバー33に、各パイロット弁8に組み込んだ手動操作部を個別に作動するための操作ボタン36を設けることは、極めて当然のことである。また、同号証記載の切換弁は、主弁の軸方向一側に2個のパイロット弁を並設するとともに、これらのパイロット弁自体にそれぞれ手動操作部と表示灯とを一体に組み込んだものであるから、訂正後の本件考案とは、切換弁の構成が基本的に相違する。

乙第2号証ないし乙第6号証に記載のものは、それぞれ「分電盤」、「操作スイッチの誤操作防止装置」、「電磁開閉器制御回路」、「しゃ断器の開閉表示装置」、「照明器の制御装置」であるから、いずれも訂正考案のパイロット弁によって作動する切換弁とは、技術分野を全く異にする。したがって、これらの証拠には、切換弁において、主弁の軸方向一側に並設した第1、第2のパイロット弁と、主弁の軸方向両側に分離して設けた第1、第2の手動操作部及び第1、第2のランプとの関係については、何も記載されていないから、上記乙号証は、上記技術常識を立証するものではない。

3  訂正後の本件考案の作用効果について

訂正後の本件考案は、第1の手動操作部及びこれに対応する第1のランプと、第2の手動操作部及びこれに対応する第2のランプとを、主弁の軸方向の一側と他側とに分離して設けたことによって、並設した2個のパイロット弁のどのパイロット弁が故障したかということ、及び弁体が主弁の軸方向の左右のいずれ側にあるかということを、外部において目視確認することができるので、手動操作部の誤操作がほとんどなくして即座に操作することができるという作用効果を奏する。

これにより、訂正後の本件考案は、軸方向の一側に配設した2個のパイロット弁と軸方向の左右に配設した2個の手動操作部との対応関係が明らかでないために、2個の手動操作部のいずれを操作すればよいかがわからないので、手動操作部を誤操作する恐れが大きいという従来技術の問題点を解決したものである。

これに対して、刊行物1には、第1、第2のパイロット電磁弁を主弁の軸方向一側に並設するとともに、主弁の軸方向一側と他側に第1、第2の手動操作部を設けたダブルソレノイド形切換弁が記載されているが、並設した2個のパイロット電磁弁への通電と主弁の弁体の位置とを関係付けるための構成は示唆さえもないから、刊行物1記載の考案では、訂正後の本件考案の奏する上記効果を期待することはできない。

また、刊行物2には、主弁の軸方向の左右にそれぞれパイロット電磁弁とランプとを備えたダブルパイロット形切換弁が記載されているが、2個のパイロット電磁弁と2個のランプとを関係付ける記載がなく、また仮にランプによって左右いずれかのパイロット弁が故障したことを外部において確認することができたとしても、手動操作部を備えていないので、手動によって主弁の弁体を作動させることができないものであるから、刊行物2記載の考案では、訂正後の本件考案の奏する上記効果を期待することができない。

4  以上のとおり、決定は、刊行物2の記載事項を誤って認定し、訂正後の本件考案の顕著な作用効果を看過して、その進歩性を否定したものであるから、取り消されるべきである。

第4決定取消事由に対する被告の反論

1  刊行物2について

刊行物2には、「上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両側にパイロット弁17,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と反対側の上面の中央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,17の作動の表示灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、電磁弁の作動等に必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取付けられている。」(5頁15行ないし6頁4行)と記載されており(別紙刊行物2の第1図参照)、また、決定が、「第1図において各表示灯23,23が遠くに離れた側のパイロット弁17,17の作動を表示すると解する理由はなく、隣接する側のパイロット弁の作動を表示するものと解するのが技術常識である」と認定したように、いずれの作動部材が作動中であるかを表示ランプによって表示する場合、人が誤りなく認識できるように作動部材とその表示ランプとを隣接して配置することは、技術常識である(乙第1ないし第6号証参照)。

そして、この技術常識をもって、刊行物2記載の考案を見ると、各表示灯23は、各パイロット弁17の作動を表示するものであるから、第1図において、左側のパイロット弁17の作動を左側の表示灯23が表示し、右側のパイロット弁17の作動を右側の表示灯23が表示するように配置されているものと認めるのが相当であり、このように配置されていることによって、左右いずれのパイロット電磁弁が作動しているかを、人が誤りなく認識できるものである。もし、これと逆に配置した場合には、人間の直感と反対になるため、誤認が発生しやすく、また、緊急の場合にはさらに高い確率で誤認が発生すると思慮されるので、この逆配置は、特別の事情がない限り使用されることのない配置である。したがって、刊行物2についての決定の認定判断に、誤りはない。

2  訂正後の本件考案の作用効果について

原告が主張する作用効果は、前記技術常識を考慮すれば、刊行物1及び刊行物2に記載された考案から予測し得る程度のものである。

第5当裁判所の判断

1  刊行物2に関する原告の主張について

原告は、刊行物2には、第1図において左側の表示灯23が左側のパイロット弁17への通電を表示し、右側の表示灯23が右側のパイロット弁17への通電を表示するものであることを示す記載はなく、また、各表示灯が隣接する側のパイロット電磁弁の作動を表示すると解することが技術常識であるという根拠は、何も示されていないと主張する。

そこで判断するに、甲第5号証によれば、刊行物2には印刷配線板付パイロット形電磁弁に関する考案が記載されており、次の記載があることが認められる。

「弁本体6の上部においては、周辺の突出部9,9間に収容室10が形成されている。・・・また、上記エンドプレート13,13上には、周知のパイロット弁17,17が、その電磁部18を上記収容室10上に突出させて取付けられている。

上記突出部9,9上に係合させた印刷配線板20は、その両側にパイロット弁17,17に対する給電端子21,21が、また上記収容室10と反対側の上面の中央に電源接続用のプラグ22が、その両側にパイロット弁17,17の作動の表示灯23,23が設けられており、さらに収容室10側の面には、電磁弁の作動等に必要な抵抗、集積回路等からなる電気、電子部品24,・・が取付けられている。また、上記印刷配線板20には、給電端子21,21、プラグ22、表示灯23,23及び電気、電子部品24,・・を電気的に接続する回路が印刷配線されている。

上記パイロット弁17,17における電磁部18の受電端子19,19は、該電磁部18から下方に向けて突出し、かつ該パイロット弁17,17を主弁5に対して取付ける際に、印刷配線板20の両側に設けた給電端子21,21に自動的に圧挿入されるような位置に設けられ、その圧挿入によって電気的に接続されるものである。

また、上記印刷配線板20の上面側は、プラグ22、受電端子19,・・を露出させる孔及び表示灯23,23を収容する収容室25を形成した保護カバー26によって覆われている。上記プラグ22は、給電線の先端のソケット27を嵌挿することによって電源に接続されるものである。」(5頁4行ないし7頁2行)

この記載及び刊行物2の第1図の記載(別紙刊行物2の第1図)によれば、電源からプラグ22を経て印刷配線板20に給電された電源電流は、左右に分かれて、電子部品24、表示灯23、給電端子21、受電端子19を経由し、パイロット弁17に通電するものと認められる。したがって、刊行物2の第1図においては、左側の表示灯23が左側のパイロット弁17への通電を表示し、右側の表示灯23が右側のパイロット弁17への通電を表示するものであると認めるのが自然である。刊行物2には印刷配線板20の配線図の開示がないが、この認定を妨げるべき特段の事情を認めるべき証拠はない。

したがって、決定には、原告が主張するような刊行物2についての認定の誤りはない。

2  訂正後の本件考案の作用効果に関する原告の主張について

原告は、訂正後の本件考案の、並設した2個のパイロット弁のどのパイロット弁が故障したかということ、及び弁体が主弁の軸方向の左右のいずれ側にあるかということを、外部において目視確認することができるので、手動操作部の誤操作をほとんどなくして即座に操作し得るという作用効果が、刊行物1及び2記載の各考案においては期待することができないと主張する。

しかし、前判示のとおり、刊行物2には、パイロット弁に隣接して左右に設けられた表示灯が該パイロット弁の通電状態を表示することが記載されている。そして、刊行物1に、パイロット弁の故障などの際に作動させる手動操作装置が左右に設けられている点が記載されていることは、決定が認定する刊行物1の記載事項(原告はこの点を争っていない。)から明らかであり、かつ、乙第1、第2、第3及び第6号証によれば、実願昭60-102907号(実開昭62-12068号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1号証)の第4図に示された操作ボタン36と透光性のランプカバー38、特開昭56-157206号公報(乙第2号証)の第5図に示されたハンドル2aと通電表示ランプ4、特開昭59-103102号公報(乙第3号証)の第1図に示された操作スイッチ11とその作動状態を示す状態表示ランプ14、実願昭61-7305号(実開昭62-120298号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第6号証)の第2図に示された制御用操作スイッチ15~22と表示ランプ11~14の関係にみられるように、手動操作キーとその表示灯(ランプ)を対応させて近接して設けた点は、技術分野を問わず広く行われている自然な設計事項であることを認めることができる。そして、その前提として、操作する人の手動操作の誤操作をなくして即座に操作し得るようにするという技術的課題が存在することも、当業者であれば自明な事項にすぎないことは明らかである。

刊行物1及び刊行物2記載の各考案が共通の技術分野に属することは決定が認定したとおりであり、この点を覆すべき特段の事実関係も認められない以上、刊行物1に記載の電磁弁に接した当業者が、操作する人の手動操作の誤操作をなくして即座に操作し得るようにするという周知の技術的課題を解決するために、刊行物2記載のパイロット弁の通電状態を表示する左右に設けられた表示灯を適用することは、当業者であれば極めて容易に想到し得たものと認められる。

これらの認定によれば、原告が主張する訂正後の本件考案の作用効果も、当業者の予測を超えるような格別顕著なものではないと認められる。

3  取消事由に対する判断のまとめ

結局、決定には原告が主張するような誤りはなく、訂正後の本件考案が出願の際独立して実用新案登録を受けることができないとした決定の判断を誤りとすることはできず、原告主張の決定取消事由は理由がない。

第6結論

よって、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 橋本英史)

<以下省略>

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